農学生命科学科

研究成果 

2024.07.05 ヨモギにできる虫こぶの多様性を解明(細胞工学研究室)

京都府立大学の武田征士 准教授(細胞工学研究室)、国立遺伝学研究所の前野哲輝技術専門職員、京都産業大学の木村成介 教授(生態進化発生学研究室)らの共同研究グループは、ヨモギに作られる虫こぶの多様性を生み出す仕組みを明らかにしました。葉や茎に作られる虫こぶの形態と発現遺伝子の解析を行った結果虫こぶでは、元の光合成器官(ソース器官)から、新たな花や実のような機能を持つ蓄積器官(シンク器官)への運命転換が行われていることが分かりました。小さな昆虫が植物の運命を大きく変えるこの能力の解明は、機能性成分を蓄積する植物器官の人為的誘導というような技術開発につながる可能性があります。

 

【研究のポイント】

  • 研究チームは、虫こぶ形成昆虫によって植物に作られる虫こぶ(虫えい、ゴール、gall)について、その形成の多様性と共通基盤を明らかにするため、草本植物のヨモギに作られる異なる虫こぶの形態と発現遺伝子の解析を行った。
  • 形態の解析から、虫こぶ内で新たな維管束形成が見られ、虫こぶとホスト植物との間での物質のやり取りが盛んであることが示唆された。そこで、X線マイクロCTによる3Dイメージングを行ったところ、虫こぶ内に形成された維管束ネットワークの状態が初めて明らかになった。
  • 葉の虫こぶでは、光合成関連遺伝子の発現が抑制される一方、細胞壁合成関連遺伝子が活性化していた。一方、茎の虫こぶでは、細胞壁合成関連遺伝子の発現が抑制されていた。また、すべての虫こぶで、非生物ストレス応答遺伝子の発現が上昇していた。
  • 以上の結果から、虫こぶでは、光合成器官(ソース器官)から花や実のような蓄積器官(シンク器官)への運命転換が行われていると考えられる。虫こぶ形成の仕組みの詳細が分かれば、植物器官を自在に作ることができる技術の開発に応用できる可能性がある。

 

(写真)ヨモギクキコブフシのX線マイクロCT画像。虫こぶの内部を非破壊で見ることができる。右の太いものが茎で、そこから丸い虫こぶができている。この虫こぶでは、ネットワーク上に広がった維管束と、5~6個の虫室(虫がいる部屋)が観察できる(矢印)。

必見!虫こぶ動画

 

【責任著者コメント】

虫こぶは、植物に作られる特殊な構造ということもあり、愛好家の目を惹きつけます(虫こぶ専門の図鑑も出版されています)。多くの虫こぶが知られているのですが、その形態の多様性を生み出す仕組みや、虫こぶ形成の仕組みはほとんど分かっていません。今回我々は、虫こぶでは、ダイナミックな遺伝子発現の変化を伴って、ホスト植物の器官から全く異なる性質のものへと変化していく、というプロセスを明らかにしました。数ミリ程度の小さな虫が、植物器官を改変する能力をもつ事は本当に驚きです。この仕組みを応用すれば、例えば葉の上に直接果実を作るといった事だって可能かもしれません。植物と虫の関係性をさらに研究して、それぞれの能力の解明と技術開発につなげていきたいと思っています。(武田)

 

*本研究は、文部科学省および日本学術振興会の科学研究費補助金(JP21K06234, JP21H02513)、国立遺伝学研究所NIG-JOINT (44A2020, 64A2021, 20A2022) の支援を受けて行われました。

 

【論文情報】

本研究成果は、国際学術誌「Plant Direct*」に、令和6年7月2日に掲載されました。

論文タイトル:Exploring the diversity of galls on Artemisia indica induced by Rhopalomyia species through morphological and transcriptome analyses.

著者:Seiji Takeda, Makiko Yoza, Sawako Ueda, Sakura Takeuchi, Akiteru Maeno, Tomoaki Sakamoto, Seisuke Kimura

DOI: 10.1002/pld3.619

 

*Plant Direct:アメリカ植物生理学会(American Society of Plant Biologists/ASPB)、実験生物学会(Society for Experimental Biology, SEP)とワイリー出版(Wiley Online Library)によって共同創刊されたオープンアクセス・ジャーナル。植物科学に関する様々な主題を扱う論文を出版する。(Plant Direct ウェブサイトより引用)

 

プレスリリース原稿はこちら

 

 

 

2024.06.21 パンデミック化のおそれがあるコムギいもち病と闘うための強力な武器となる抵抗性遺伝子Rmg8を単離・同定し、その成果を世界トップレベルの学術誌Nature Plantsに発表しました(植物育種学研究室)

コムギいもち病は1985年にブラジルで初めて発生が確認され、近年南アジアやアフリカにも伝播し、今後パンデミック化の可能性がある病害です。また、葉にはほとんど病徴が出ず穂に一斉に発病し、最初の症状から1週間以内に穀粒が委縮し変形してしまうため、対策を講じる間もなく収穫皆無となることがあり、国境や大陸を超えて被害が拡大した場合は世界のコムギ栽培にとって大きな脅威となる心配があります。一方で、発生して間もない本病に対する抵抗性遺伝子の報告数は未だ少ないため、新規抵抗性遺伝子の同定や多様な抵抗性遺伝子の導入による新たな抵抗性品種の育成が望まれています。

植物育種学研究室の半田裕一教授が参加した共同研究グループは、6倍体コムギの2B染色体長腕に座乗する抵抗性遺伝子Rmg8を単離・同定し、それが2A染色体にあるコムギうどんこ病抵抗性遺伝子Pm4の同祖遺伝子であることを明らかにしました。しかし、Rmg8にはうどん粉病に対する抵抗性はなく、病害抵抗性遺伝子の進化を考える上で興味深い結果となりました。Rmg8の単離・同定により、いもち病 抵抗性コムギ品種を開発がより一層進むものと期待されます。

本研究は、神戸大学をリーダーとして、岩手生物工学研究センター、農研機構、京都大学、京都府立大学、岡山大学による共同研究で行われ、その成果は2024年6月19日にNature Plants誌に掲載されました。

 

 

論文書誌事項:

Asuke S, Morita K, Shimizu M, Abe F, Terauchi R, Nago C, Takahashi Y, Shibata M, Yoshioka M, Iwakawa M, Kishi-Kaboshi M, Su Z, Nasuda S, Handa H, Fujita M, Tougou M, Hatta K, Mori N, Matsuoka Y, Kato K, Tosa Y (2024) Evolution of wheat blast resistance gene Rmg8 accompanied by differentiation of variants recognizing the powdery mildew fungus

 

Nature Plants, https://www.nature.com/articles/s41477-024-01711-1

2024.05.28 動物機能学研究室 修士大学院生の日本栄養・食糧学会大会「学生優秀発表賞」受賞について

2024年5月24〜26日に中村学園大学(福岡県福岡市)で開催されました「第78回 日本栄養・食糧学会大会」において、動物機能学研究室の大学院生 池田倭子(博士前期課程2回生)が学生優秀発表賞を受賞しました。

なお、学生優秀発表賞は、152名の応募者から13名が選ばれました。学会活動強化委員会による一次審査(演題要旨)とポスター発表による二次審査の結果、受賞者が決定いたしました。

 

1 受賞者

池田 倭子(いけだ わこ)

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 博士前期課程2回生

 

2 受賞内容

学生優秀発表賞

 

3 研究課題

「紅茶ポリフェノールの腸ホルモンと自律神経反射を介した体熱産生作用」

 

4 受賞年月日

令和6年(2024)年5月26日(日)

 

(参考)

大会HP:https://www2.aeplan.co.jp/jsnfs2024/index.html

学会HP:https://www.jsnfs.or.jp

2024.05.28 動物機能学研究室 博士大学院生の日本栄養・食糧学会大会「トピックス賞」受賞について

2024年5月24〜26日に中村学園大学(福岡県福岡市)で開催されました「第78回 日本栄養・食糧学会大会」において、動物機能学研究室の大学院生 射場拳虎(博士後期課程1回生)がトピックス賞を受賞しました。

トピックス賞は、第78回日本栄養・食糧学会大会の一般演題の中からプログラム委員会および広報委員会によって特に話題性が認められる22演題が選出されました。尚、令和6年4月26日に開催された本大会の記者会見において、トピックス賞演題が解説されました。

 

1 受賞者

射場 拳虎(いば けんご)

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 博士後期課程1回生

 

2 受賞内容

トピックス賞

 

3 研究課題

「希少糖アルロースの腸GLP-1放出による<求心性迷走神経-脳>軸の活性化は抗不安と社会性向上を誘導する」

 

4 受賞年月日

令和6年(2024)年5月26日(日)

(参考)

大会HP:https://www2.aeplan.co.jp/jsnfs2024/index.html

学会HP:https://www.jsnfs.or.jp

2024.04.02 動物機能学研究室博士大学院生の日本生理学会 Physiological Reports Poster Awardの受賞

2024年3月28日〜30日に福岡県北九州市で開催されました「第101回日本生理学会大会」において、動物機能学研究室の大学院生 大林健人(博士後期課程3回生)が第101回日本生理学会大会 Physiological Reports Poster Awardを受賞しました。

Physiological Reports Poster Awardは、英国生理学会と米国生理学会が共同で運営するJournal “Physiological Reports”主催の大学院生を対象とした賞です。本大会には計27演題が応募され、その中から6演題が最終候補として選出されました。選出された6演題は、英語でのポスター発表および質疑応答による審査を経て、最終的に2演題がPoster Awardに選出されました。

 

1 受賞者

大林 健人

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 博士後期課程3回生

 

2 受賞内容

第101回日本生理学会大会 Physiological Reports Poster Award

 

3 研究課題

 「Intestinal GLP-1 and pancreatic insulin enhance insulin action through cooperative action at the common hepatic branch of vagal afferents」

      (腸GLP-1と膵インスリンは求心性迷走神経共通肝臓枝への協働作用を介してインスリン作用を増強する)

 

4 受賞年月日

2024(令和6)年3月29日(金曜日)

 

(参考)

第101回日本生理学会大会 website  

https://www2.aeplan.co.jp/psj2024/

第101回日本生理学会大会Physiological Reports Poster Award 募集要項

https://www2.aeplan.co.jp/psj2024/poster_award/

第101回日本生理学会大会 Physiological Reports Poster Award受賞者

https://www2.aeplan.co.jp/psj2024/pdf/pr_posteraward.pdf

 

Physiological Reportsの雑誌ホームページのAwardsの特集ページ

https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/hub/journal/2051817x/awards

2024.03.05 果樹園芸学研究室の研究成果が論文として掲載されました

果樹園芸学研究室では、遠縁交雑(異なる種・属間での交雑)による新規果樹の作出に関する研究を進めています. 農業生産の現場では,気候変動等によって従来はみられなかった病虫害の発生や果実品質の低下が大きな問題となっています.

異なる種を掛け合わせる育種手法は遺伝的多様性を各段に向上させ,種を越えた形質のやり取りを可能にすることから,遺伝子プールの拡大に貢献し,画期的な新品種を生み出す可能性を秘めています.

今回私たちは、リンゴとナシの属間雑種を作出することに成功し,表現型やゲノム構造の特徴に関する研究成果を英語論文に発表しました.

新規に作出した雑種系統を用いて,病害抵抗性の付与や育種を加速化する技術開発に取り組んでおり,私たちの研究に興味を持って一緒に研究に取り組んでくれる学生をお待ちしています.

論文は以下のURLからご覧いただけます.

2024.01.31 京都府立大学 分子栄養学研究室の研究成果が 国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました

〜運動は転写共役因子PGC1αを介して神経筋接合部を改善する〜

 

令和6年1月31日

京都府立大学

 

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 分子栄養学研究室は、国立長寿医療研究センターの江口貴大 研究員や静岡県立大学の三浦進司 教授と共同研究を行い、運動が神経筋接合部の形成を改善するメカニズムを明らかにし、この内容が学術誌「Scientific Reports」(電子版)に2024年1月20日付けにて掲載されました。

 

運動神経終末と筋線維の間に形成される神経筋接合部は、筋収縮などの筋機能に重要です。神経筋接合部の形成悪化は、加齢に伴う筋量および筋力の低下 (サルコペニア) の初期に観察され、筋機能の低下をもたらすことが報告されています。また筋萎縮性側索硬化症(ALS)やデュシェンヌ型筋ジストロフィーといった神経筋疾患では神経筋接合部に障害が生じます。つまり、生活の質を維持し、健康寿命を延ばすためには、神経筋接合部の構造を維持する必要があります。また、運動は加齢による神経筋接合部の形成悪化を改善することが報告されています。分子栄養学研究室では、運動により筋肉で発現が増加する転写共役因子PGC1αに着目し、運動が神経筋接合部の形成を改善するメカニズムを明らかにすることを試みました。

本研究では、筋肉でPGC1αが欠損または過剰発現している遺伝子改変マウスの筋肉を用いて、遺伝子の発現解析を行いました。その結果、PGC1αが神経筋接合部の形成に必須であるDok-7という遺伝子の発現を制御していることがわかりました。さらに運動を行ったマウスやヒトの筋肉の解析も行いました。その結果においても、PGC1αの発現とDok-7の発現に正の相関があることがわかりました。

この研究より、加齢や神経筋疾患で悪くなる神経筋接合部を運動がどのようにして改善するのかを初めて明らかにしました。また、PGC1αは運動だけでなく、食品成分(大豆イソフラボンやレスベラトロール)によっても活性化されるため、食事による神経筋接合部の改善に繋がる手がかりとなる可能性があります。

プレスリリースはこちら

 

 

2024.01.23 DNAの切断が植物の染色体に与える影響を解明 (植物ゲノム情報学研究室)

DNA二本鎖の切断は活性酸素や放射線などによって生じ、そのままでは遺伝情報の消失や細胞死を引き起こすため、細胞内の修復機構によって絶えず修復されています。また一方で、品種改良の新たな技術として注目されているゲノム編集は、このDNAの切断と修復の反応を応用したものです。このようにDNAの切断・修復は非常に重要な現象ですが、そのメカニズムには、まだまだ未解明の部分が残されています。

 

植物ゲノム情報学研究室の川口晃平氏(博士課程)と佐藤講師は、弘前大学、摂南大学の研究グループとともに、シロイヌナズナのゲノム上の様々な位置でDNAの切断を一時的に引き起こす方法を開発し、DNAの切断が起こると、切断されたDNAの周辺のヒストンタンパク質に様々な変化が生じることを明らかにしました。ヒストンタンパク質は、遺伝子発現やDNAの複製といった多くのメカニズムにも関わっていることから、今後、DNAの切断・修復と染色体や遺伝子の制御との関わりについて、より解明が進むことが期待されます。

 

 

本研究成果は、国際学術誌「Plant and Cell Physiology」に掲載されました。

 

 

論文タイトル :

Inducible Expression of the Restriction Enzyme Uncovered Genome-Wide Distribution and Dynamic Behavior of Histones H4K16ac and H2A.Z at DNA Double-Strand Breaks in Arabidopsis

 

著者 :

Kohei Kawaguchi, Mei Kazama, Takayuki Hata, Mitsuhiro Matsuo, Junichi Obokata, Soichirou Satoh

 

リンク : https://doi.org/10.1093/pcp/pcad133

 

 

2023.12.27 バラの交配調査に関する論文が公開されました

バラの交配調査に関する論文が、Plant Biotechnology誌で公開されました。

 

バラは、世界中で育てられている主要な花き作物として広く流通しています。

近年の遺伝子組換えやゲノム編集により、新しい形質をもつ品種が作出されてきていますが、野生への組換え遺伝子の流出等は常に問題となります。

栽培品種から野生種への遺伝子流出がどれくらいあり得るかを調べるために、まずは非組換えの栽培品種と、野生バラを密植して、訪花昆虫や交配の有無を調べました。その結果、密植状態では交配はじゅうぶん起こり得るが、胚のDNA抽出とPCR検査によって交配を確認できることが分かりました。

バラの商業的な側面を拡大しつつも、野生生態系への影響を確認し続ける技術として有用だと考えられます。

 

タイトル:Gene-flow investigation between garden and wild roses planted in close distance

著者:Yuna Asagoshi, Eri Hitomi, Noriko Nakamura, Seiji Takeda

リンク:Plant Biotechnology, 40 (4), 283-288

(細胞工学研究室 武田准教授)

 

 

2023.11.22 4大学フォーラムで動物機能学研究室大学院生が「ポスター発表 最優秀賞」を受賞

本学生命環境科学研究科 動物機能学研究室の大学院生が、令和5年(2023)年11月21日(火)に京都工芸繊維大学(京都市左京区)で開催された「第13回 4大学連携研究フォーラム」のポスター発表:学生の部において、最優秀賞を受賞しましたので、下記のとおり報告いたします。

事前に提出した要旨に加え、フォーラム当日に実施されたポスター発表を経た審査の結果、受賞が決定されました。

なお、本大会における選考演題は57題であり、その中から1名が受賞しました。

 

 

1 受賞者

射場 拳虎(いば けんご、生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 博士前期課程2年)

 

2 受賞題目

「求心性迷走神経を介した末梢・中枢オキシトシン連関による抗不安・社会性向上作用」

 

3 受賞年月日

令和5年(2023)年11月21日(火)

 

(参考)4大学連携研究フォーラムは、京都工芸繊維大学、京都薬科大学、京都府立医科大学及び京都府立大学の教員や研究者、学生等が一堂に会し、お互いの研究内容に関する情報交換等を実施することにより、共同研究等の学術交流を促進し、4大学の研究活動の活性化や研究基盤の強化に資することを目的に開催されている。

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