話題の腸ホルモン「グルカゴン様ペプチド(GLP-1)」の食欲に対する効果
社会的背景として、世界規模で肥満は増加し続けています。そして、肥満の主な原因は過食です。しかし、美味しいものを手に入れられる現代、過食を抑制・予防することは容易でなく、医薬品分野における摂食抑制薬の開発も難航してきました。
昨年から、腸由来のホルモンであるグルカゴン様ペプチド(GLP-1)が話題となっています。その理由は、昨年日本では30年ぶりに、抗肥満薬(食欲抑制薬)が使用開始となりました。この新しい薬は、GLP-1を基にして設計されたGLP-1受容体作動薬というものです。一方、腸ホルモンGLP-1は我々の腸から食後に分泌されるホルモンです。腸由来のGLP-1とGLP-1受容体作動薬は非常に類似であることから、食事で誘導される腸GLP-1を適切に利用すれば、抗肥満薬のように、過食や肥満を予防・改善できるのかもしれません。
学術雑誌「Diabetology International」に発表しました本総説では、腸由来のGLP-1とGLP-1受容体作動薬の「食欲に対する作用」と「そのメカニズム」を概説しています。そして、GLP-1受容体作動薬の副作用の発生要因を整理するとともに、両者の特性を活かした併用戦略の可能性を論じています。特に、腸GLP-1が有する「副作用なく自然に食欲を抑える」効果に着目し、特定のGLP-1分泌を促進させる食材(希少糖など)や食事の順番の工夫によって、腸GLP-1の生理的分泌を高めるアプローチを解説しています。腸GLP-1分泌促進とGLP-1受容体作動薬とを併用することにより、それぞれの短所を補完し合いながら、長期的な肥満予防・治療に貢献することが期待されます。
英語の総説論文となりますが、ご興味をお持ちの方は、ぜひご一読いただけますと幸いです。
【論文情報】
論文名: Comparing the anorexigenic effects and mechanisms of gut-derived GLP-1 and its receptor agonists: insights into incretin-based therapies for obesity
(腸由来GLP-1とその受容体作動薬の食欲抑制作用と作用機序の比較:肥満治療におけるインクレチン療法の新たな展望)
著者: Yuta Masuda(増田雄太), Kento Ohbayashi(大林健人)and Yusaku Iwasaki*(岩崎有作、*代表著者)
雑誌名: Diabetology International, (2025)
https://doi.org/10.1007/s13340-025-00819-9
【概要図】