咳と嚥下のスイッチ 喉に新たな感覚器官を発⾒〜咳治療に道筋、喉ごし感覚の⼀端か?
京都府立大学動物機能学の岩崎有作教授・大林健人博士は、京都府立医科大学細胞生理学の樽野陽幸教授らとの共同研究で、科学雑誌「Cell」に研究成果を発表しました。本研究において、内臓感覚神経を専門とする岩崎教授と大林博士は、喉頭・咽頭と脳とを繋ぐ迷走感覚神経への遺伝子導入技術を用いた研究技術で貢献しました。
樽野教授らは、喉の上⽪に希少に存在する感覚細胞群を発⾒し、これらの細胞が侵害化学物質に応答し、喉頭では咳、咽頭では嚥下を引き起こすこと、およびその細胞内分⼦メカニズムを解明しました。
◆本研究成果のポイント
○咳が8週間以上続く慢性咳嗽(がいそう)や嚥下障害には原因不明または難治症例が多く治療法が限られています。こうした現状から咳や嚥下の⽣理学的機序の理解不⾜が指摘されてきました。
○マウスを⽤いた実験で、喉の上⽪に希少に存在する感覚細胞群を発⾒し、これらの細胞が侵害化学物質に応答し、喉頭では咳、咽頭では嚥下を引き起こすこと、およびその細胞内分⼦メカニズムを解明しました。
○咳や嚥下を司る新規感覚器官の発⾒であり、苦味を呈する毒素を含む植物抽出物、タバコの煙、空気汚染物質、病原体関連物質など多様な侵害化学物質に対して⽣じるこれらの気道防御反射の機序が明らかとなりました。
○これら感覚器官がアレルギー性咳過敏症にも関与していることが分かり、慢性咳嗽創薬に道筋を⽰すことが期待されます。
○⼀般に喉ごしと表現され、ビールを飲む際などに喉で知覚される感覚には苦味が重要ですが、その機序は分かっていません。苦味物質が嚥下を促進する機序を解明した本研究は、ビールの苦味がもつ喉ごし感覚の⼀端を説明するかもしれません。
◆研究概要
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 教授 樽野陽幸らは、理化学研究所生命医科学研究センター応用ゲノム解析技術研究チーム チームリーダー 岡﨑康司らとの共同研究により、マウスを用いた実験で、苦味のある毒素を含む植物抽出物、タバコの煙、空気汚染物質、病原体関連物質など多様な侵害化学物質に対して生じる咳や嚥下を担う喉の感覚細胞を新たに発見しました。さらに、これらの細胞がアレルギー性の咳過敏症に関与することを明らかにしました。
本件に関する論文が、科学雑誌『Cell』に2025年4月5日付けで掲載されましたのでお知らせします。
本研究は、喉(咽頭および喉頭)に希少に存在する新規の感覚器官を発見しその機能を分子レベルで解明したもので、外界からの刺激に対する生体の応答機序の理解を前進させるものです。咳の症状が長期間続く慢性咳嗽は患者の生活の質を著しく損ないますが、原因不明または難治性の症例が多く見られます。
本研究成果をもとに、今後、この咳の機序がヒトにも存在することが明らかになれば、慢性咳嗽の診断および治療法に新たな道筋を与えることが期待されます。
◆論文情報
雑誌名 Cell
発表媒体 オンライン速報版
雑誌の発行元国 ⽶国
オンライン閲覧 可 https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)00280-6
掲載日 2025年4⽉5⽇(⽇本時間)
論文タイトル(英・日)
英語:Channel synapse mediates neurotransmission of airway protective chemoreflexes
(⽇本語:チャネルシナプスは気道防御反射の神経伝達を担う)
代表著者
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 樽野陽幸
共同著者
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 相馬祥吾
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 野村憲吾
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 Mark W. Sherwood
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 末松尚史
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 村上達郎
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 青木崇倫
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 山田 優
京都府立医科大学大学院医学研究科 細胞生理学 浅山萌絵
理化学研究所生命医科学研究センター 応用ゲノム解析技術研究チーム 岡﨑康司
理化学研究所生命医科学研究センター 応用ゲノム解析技術研究チーム 早津徳人
京都府立医科大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 杉山庸一郎
京都府立医科大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 金子真美
自治医科大学大学院医学研究科 組織学 大野伸彦
京都府立大学大学院生命環境科学研究科 動物機能学 岩崎有作
京都府立大学大学院生命環境科学研究科 動物機能学 大林健人
モネル化学感覚研究所 松本一朗
福岡女子大学 国際文理学部 濱田 俊
京都大学 白眉センター 有薗美沙
東海大学大学院医学研究科 分子生命科学 大塚正人
論文はこちら
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)00280-6
プレスリリース資料はこちら
https://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2025/files/38317.pdf
京都府立医科大学のホームページ
https://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2025/20250402.html