京都府立大学の武田征士 准教授(細胞工学研究室)、国立遺伝学研究所の前野哲輝技術専門職員、京都産業大学の木村成介 教授(生態進化発生学研究室)らの共同研究グループは、ヨモギに作られる虫こぶの多様性を生み出す仕組みを明らかにしました。葉や茎に作られる虫こぶの形態と発現遺伝子の解析を行った結果、虫こぶでは、元の光合成器官(ソース器官)から、新たな花や実のような機能を持つ蓄積器官(シンク器官)への運命転換が行われていることが分かりました。小さな昆虫が植物の運命を大きく変えるこの能力の解明は、機能性成分を蓄積する植物器官の人為的誘導というような技術開発につながる可能性があります。
【研究のポイント】
(写真)ヨモギクキコブフシのX線マイクロCT画像。虫こぶの内部を非破壊で見ることができる。右の太いものが茎で、そこから丸い虫こぶができている。この虫こぶでは、ネットワーク上に広がった維管束と、5~6個の虫室(虫がいる部屋)が観察できる(矢印)。
【責任著者コメント】
虫こぶは、植物に作られる特殊な構造ということもあり、愛好家の目を惹きつけます(虫こぶ専門の図鑑も出版されています)。多くの虫こぶが知られているのですが、その形態の多様性を生み出す仕組みや、虫こぶ形成の仕組みはほとんど分かっていません。今回我々は、虫こぶでは、ダイナミックな遺伝子発現の変化を伴って、ホスト植物の器官から全く異なる性質のものへと変化していく、というプロセスを明らかにしました。数ミリ程度の小さな虫が、植物器官を改変する能力をもつ事は本当に驚きです。この仕組みを応用すれば、例えば葉の上に直接果実を作るといった事だって可能かもしれません。植物と虫の関係性をさらに研究して、それぞれの能力の解明と技術開発につなげていきたいと思っています。(武田)
*本研究は、文部科学省および日本学術振興会の科学研究費補助金(JP21K06234, JP21H02513)、国立遺伝学研究所NIG-JOINT (44A2020, 64A2021, 20A2022) の支援を受けて行われました。
【論文情報】
本研究成果は、国際学術誌「Plant Direct*」に、令和6年7月2日に掲載されました。
論文タイトル:Exploring the diversity of galls on Artemisia indica induced by Rhopalomyia species through morphological and transcriptome analyses.
著者:Seiji Takeda, Makiko Yoza, Sawako Ueda, Sakura Takeuchi, Akiteru Maeno, Tomoaki Sakamoto, Seisuke Kimura
*Plant Direct:アメリカ植物生理学会(American Society of Plant Biologists/ASPB)、実験生物学会(Society for Experimental Biology, SEP)とワイリー出版(Wiley Online Library)によって共同創刊されたオープンアクセス・ジャーナル。植物科学に関する様々な主題を扱う論文を出版する。(Plant Direct ウェブサイトより引用)
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