〜運動は転写共役因子PGC1αを介して神経筋接合部を改善する〜
令和6年1月31日
京都府立大学
京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 分子栄養学研究室は、国立長寿医療研究センターの江口貴大 研究員や静岡県立大学の三浦進司 教授と共同研究を行い、運動が神経筋接合部の形成を改善するメカニズムを明らかにし、この内容が学術誌「Scientific Reports」(電子版)に2024年1月20日付けにて掲載されました。
運動神経終末と筋線維の間に形成される神経筋接合部は、筋収縮などの筋機能に重要です。神経筋接合部の形成悪化は、加齢に伴う筋量および筋力の低下 (サルコペニア) の初期に観察され、筋機能の低下をもたらすことが報告されています。また筋萎縮性側索硬化症(ALS)やデュシェンヌ型筋ジストロフィーといった神経筋疾患では神経筋接合部に障害が生じます。つまり、生活の質を維持し、健康寿命を延ばすためには、神経筋接合部の構造を維持する必要があります。また、運動は加齢による神経筋接合部の形成悪化を改善することが報告されています。分子栄養学研究室では、運動により筋肉で発現が増加する転写共役因子PGC1αに着目し、運動が神経筋接合部の形成を改善するメカニズムを明らかにすることを試みました。
本研究では、筋肉でPGC1αが欠損または過剰発現している遺伝子改変マウスの筋肉を用いて、遺伝子の発現解析を行いました。その結果、PGC1αが神経筋接合部の形成に必須であるDok-7という遺伝子の発現を制御していることがわかりました。さらに運動を行ったマウスやヒトの筋肉の解析も行いました。その結果においても、PGC1αの発現とDok-7の発現に正の相関があることがわかりました。
この研究より、加齢や神経筋疾患で悪くなる神経筋接合部を運動がどのようにして改善するのかを初めて明らかにしました。また、PGC1αは運動だけでなく、食品成分(大豆イソフラボンやレスベラトロール)によっても活性化されるため、食事による神経筋接合部の改善に繋がる手がかりとなる可能性があります。