農学生命科学科

研究成果

2021.07.01翅二型性をもつ昆虫に、幼虫期の高密度が短翅成虫の出現率を上昇させる種が複数ある(応用昆虫学)

昆虫の「翅二型性」の典型は、同種同性個体に非移動型(無翅・短翅型)と飛翔移動型(長翅型)との、2つの不連続な表現型を発現する性質です。植食性昆虫の高密度での生息は、植物資源の枯渇や悪化、ならびに天敵の集中などをもたらします。そのため翅二型性昆虫においては、一般的に、高密度は飛翔移動型(長翅型)の出現率を増加させる条件であると考えられていました。雌成虫は不適な条件から飛翔離脱して、より好適な場所へ移動して繁殖することが適応的だと理解できるからです。 応用昆虫学研究室大学院生の近森ちさこ(前期課程修了)と中尾史郎教授は、植物病原ウイルスを伝搬する外来昆虫の1種である翅二型性のアザミウマ(ウスグロアザミウマFrankliniella fusca)において、幼虫期の高密度での発育が雌成虫の短翅型出現率増加に帰着することを発見しました。この翅型構成比率の変動は定説と逆の反応ですが、アザミウマ科昆虫で2属めの発見となり、これが「特殊な例外」でないことを示しました。 本種は北米の主要農業害虫で、貯蔵球根や輸出用植物体で発見されています。しかし、日本国内の野外での農業被害は侵入から約20年経っても顕在化していません。その理由の1つとして、この翅型発現性・密度依存的反応が疑われます。 昆虫が飛翔能力を発揮するか温存するかという分散多型の進化メカニズムを追究し、昆虫に普遍な、そしてアザミウマ科農業害虫に特有な翅型決定(表現型可塑性の制御)機構を解明することが今後期待されます。生息密度がどのような刺激として受容され、どういった神経・ホルモン作用を介して飛翔器官の減退や発達に結びつくかを理解することは、昆虫の飛翔移動による農業被害面積の拡大を防止する手法の開発につながります。   論文タイトル: Crowding leads to higher incidence of brachypterous females in the tobacco thrips, Frankliniella fusca (Hinds) (Thysanoptera: Thripidae). Journal of Asia-Pacific Entomology 24 (2021年). (関連サイト)https://doi.org/10.1016/j.aspen.2021.01.015

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