2021年
6月
5日(土)にオンラインにて開催された「日本農芸化学会関西支部第
515回講演会」において、動物機能学研究室所属の大学院生 大林健人さんが優秀発表賞(支部長推薦)を受賞しました。下記のとおり報告いたします。
受賞者
大林 健人(京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 博士前期課程
2年)
受賞題目
「ペクチン含有炭酸水の胃腸拡張による
GLP-1分泌促進と摂食リズム異常改善作用」
関連
Webサイト(日本農芸化学会関西支部第
515回講演会)
http://kansai.jsbba.or.jp/presentation/2021年度支部講演会/515講演会.html
キクの雄ずいと心皮の形成を制御している2種類のクラスC遺伝子(CAG1, CAG2)の機能を遺伝子組換え技術を用いて同時に抑制することで、これらの器官が花弁に変化した「八重咲きのキク」の作出に世界で初めて成功しました。頭状花序を持つキクでは花弁のように見える舌状花(個々が一つの花)で退化して見えなくなっていた雄ずいが5枚の細い花弁になって露呈するため、一般的な八重の花とは異なる独特の華やかな印象を与えるようになりました。クラスC遺伝子の機能抑制による雄ずいや雌ずいの花弁化は花卉の不稔化技術としてもその利用が期待されています。
本研究は,農研機構・佐々木克友 博士らとの共同研究によるものです。論文は2021年4月13日に科学雑誌Plantaに掲載されました。
<論文情報>
Katsutomo Sasaki, Satoshi Yoshioka, Ryutaro Aida & Norihiro Ohtsubo (2021) Production of petaloid phenotype in the reproductive organs of compound flowerheads by the co-suppression of class-C genes in hexaploid Chrysanthemum morifolium. Planta 253: Article number: 100
PMID: 33847818 DOI: 10.1007/s00425-021-03605-4
コムギの桴(ふ)色とは穂の外観の色のことですが、この桴色を決める遺伝子
Rg-B1は、コムギのグルテンの構成要素の一つである低分子量グルテニンサブユニットをコードする
Glu-B3遺伝子座の遺伝子型識別のための圃場マーカーとして利用されてきました。
植物育種学研究室の半田裕一教授と4回生の森田匠くんのグループは、サウジアラビア、スイス、アメリカの研究者と共同して、コムギの桴色遺伝子
Rg-B1を単離・同定し、その実体は
MYB転写因子であることを明らかにしました。
また、その遺伝子解析を通じてオーガニック食品として欧米で人気のあるスペルト小麦の起源を明らかにし、その成果を
Communications Biologyに掲載しました。

論文タイトル:
Population genomics and haplotype analysis in spelt and bread wheat identifies a gene regulating glume color
Communications Biology 4: 375 (2021). https://www.nature.com/articles/s42003-021-01908-6.pdf
論文リンクは
こちら
京都府立大学の武田征士准教授(細胞工学研究室)、奈良先端科学技術大学院大学の津川暁特任助教(植物代謝制御研究室)らの共同研究グループは、江戸時代から知られている変化アサガオのひとつで、花びらが折れ曲がる「台咲(だいざき)」系統を材料に、花びらがまっすぐに伸びる力学的な仕組みを明らかにしました。花器官表面にあるミクロ構造「分泌腺毛」が、器官どうしの摩擦を軽減することで、狭いつぼみの中でも花びらが伸長できることが分かりました。この仕組みを応用し、観賞用の花の形を自在に制御する園芸技術につながる可能性があります。
プレスリリース原稿はこちら
図1 野生型(左)と 台咲(右)の花
野生型では花弁がまっすぐ伸長して漏斗状になる。台咲では花弁が2度折れ曲がり、花の中央に筒状の「台」と呼ばれる構造を作る。
花びら伸長のメカニズム
野生型(左)では分泌腺毛とそこからの分泌物によってまっすぐ伸びる。台咲(右)では分泌腺毛がなく、花びらに摩擦が生じ、曲がってしまう。
【研究のポイント】
〇 江戸時代(
1815年)に記載された変化アサガオのひとつで、花びら(花冠)の筒部分が折れ曲がる「台咲(だいざき)」系統を材料に、花びら伸長のメカニズムを研究しました
〇
花弁とがく片の表面にある分泌腺毛が、花器官どうしの摩擦を軽減することで、狭いつぼみの中で花びら(花冠)がまっすぐに伸長できることが分かりました。
〇 分泌腺毛の役割として、病害虫に対する物理・化学的防御が広く知られていましたが、今回の研究によって「花器官どうしの摩擦の軽減」という力学的機能が初めて示されました
〇 分泌腺毛というミクロ構造が、花びらの形づくりというマクロな過程に重要な役割を果たすことが分かりました。植物表面のミクロ構造を改良することで、花の形を改良できることが示唆されました。
【責任著者コメント】
今回、日本の伝統園芸植物のひとつであるアサガオの研究により、「花弁をまっすぐ伸ばす」という、一見当たり前のような事が、植物の積極的なメカニズムによって制御されることが分かりました。「変化アサガオ」にはまだまだたくさんの種類があり、日本ならではの研究に結びつく宝が埋もれています。国際化・オンラインネットワークにより世界中とつながることのできる今こそ、日本の歴史が蓄積してきた足元の宝に目を向けるのも、とても大事だと考えています。また、新型コロナウイルスで人々の心がすさんでいきがちですが、こういう時こそ、この研究成果によって、花をみて心癒される人が増えるよう、また、皆さんの花(植物)への関心が高まりますよう、心より願っております。
(京都府立大学 武田征士)
【論文情報】
本研究成果は、国際学術誌「
Communications Biology」に、令和3年3月5日10時
(GMT)に掲載されます。
論文タイトル:Reduction in organ-organ friction is critical for corolla elongation in morning glory.
著者:Ayaka Shimoki, Satoru Tsugawa, Keiichiro Ohashi, Masahito Toda, Akiteru Maeno, Tomoaki Sakamoto, Seisuke Kimura, Takashi Nobusawa, Mika Nagao, Eiji Nitasaka, Taku Demura, Kiyotaka Okada, Seiji Takeda. doi. 10.1038/s42003-021-01814-x
【研究体制】
- 京都府立大学大学院生命環境科学研究科 細胞工学研究室
准教授 武田征士
大学院生 下木彩香、大橋恵一郎、戸田真人
学部
4回生 長尾実果
- 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 植物代謝制御研究室
教授 出村拓
特任助教 津川暁
- 国立遺伝学研究所 生物遺伝資源センター 植物育成開発支援部門
技術専門職員 前野哲輝
教授 木村成介
博士研究員 坂本智昭
- 広島大学大学院統合生命科学研究科 附属植物遺伝子保管実験施設
助教 信澤岳
- 九州大学大学院理学研究院生物科学部門 植物多様性ゲノム学研究室
准教授 仁田坂英二
教授 岡田清孝
農学生命科学科・細胞工学研究室の武田准教授のグループは、近畿エリアの自生サギソウについて、花弁の形態とDNAマーカーを用いた多様性の調査を行い、論文として発表しました。
サギソウは湿地に生息する野生ランで、飛ぶ鳥のような形をした特徴的な花弁は、古来から人々を魅了してきました。しかしながら、湿地減少に伴ってその数は激減し、現在では絶滅危惧種(NT)に指定されています。
武田准教授のグループは、近畿エリアで維持・栽培されているサギソウについて、花弁形態の定量化とDNAマーカーによる遺伝的多様性の調査を行いました。この結果、花弁形態に地域の特徴があることや、地域によっては遺伝的多様性が低く、絶滅の危険性が高いことが分かりました。
花弁形態の定量化とDNAマーカーの利用により、自生地個体群の多様性調査が可能になり、保全の指標となります。他の残された自生個体についても多様性を把握し、保全につなげていきたいと考えています。

T. Tachibana, Y. Nishikawa, N. Kubo, S. Takeda (2020)
Morphological and genetic diversities of
Habenaria radiata (Orchidaceae) in the Kinki Area, Japan.
International Journal of Molecular Sciences 22 (1), 331
doi:10.3390/ijms22010311
論文リンク
世界のコムギ
15品種の高精度ゲノム解読に成功
生命環境科学研究科半田教授が参加した横浜市立大学、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、京都大学等から成る研究グループは、世界10か国の国際共同研究である「国際コムギ10+ ゲノムプロジェクト」にて、日本のコムギ品種農林61号など、世界のコムギ15品種のゲノム解読に成功し、その成果が11月26日にNatureにオンライン掲載されました。
コムギは、イネ・トウモロコシとならぶ世界三大穀物ですが、実用品種のゲノム配列情報が不足しており、ゲノム配列の比較解析や、ゲノム情報を利用した現代的な分子育種への展開が遅れていました。今回、de novoゲノムアセンブリというゲノム解析技術を用いることで、初めて、15の実用品種について高精度のゲノム配列を得ることに成功しました。これにより分子育種技術の開発に欠かせない品種間差についての比較ゲノム・進化ゲノム解析が可能となりました。今後、ゲノム情報を活用したコムギの育種研究や品種改良が、国内外で飛躍的に進むと期待されます。その中でも日本チームが解読を担当した「農林61号」はゲノム配列が決定された欧米の他の品種群と配列が大きく異なるため、アジアのコムギ品種の参照ゲノムとして広く利用されていくと考えられます。
また、国際プロジェクトの成果とは別に、「農林61号」の詳細なゲノム情報解析に関する論文が、11月27日Plant and Cell Physiologyにオンライン掲載される予定です。
プレスリリースはこちら
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20201126-2/index.html
論文タイトル:
Multiple wheat genomes reveal global variation in modern breeding
Nature (2020).
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2961-x
De novo genome assembly of the Japanese wheat cultivar Norin 61 highlights functional variation in flowering time and Fusarium resistance genes in East Asian genotypes
Plant and Cell Physiology (2020).
https://doi.org/10.1093/pcp/pcaa152
生物多様性の保全が叫ばれて久しいですが,そもそも我々は地球上に生息している生物相のごく一部しか把握できていません.よって今後は,これまで以上に効率よく生物の多様性を解明していく,つまり,名も無き生物種を発見し,命名し,その生き様を記録していく,ことが求められます.
本書は,動物界最大の多様性を誇る節足動物を対象に,そもそも野外でどうやって対象の生物種を見つけるのかから始まり,生態情報の記録法や,研究の基盤となる学術標本の作成法と保管法に関してまで,多岐にわたる研究手法を様々な分類群の専門家が執筆しています.
本学からは昆虫学を専門とする大島准教授が17章の『Collecting, Rearing, and Preserving Leaf-Mining Insects』をフランス,ロシアの研究者と共同執筆しており,葉に潜る昆虫である「絵かき虫」の仲間を用いた多様性研究の手法を解説しています.
こうした手法は,従来は研究室ごとの伝統として口頭で受け継がれていくことが多かったのですが,本書籍が出版されたことで,新たな研究者の参入も含めたより迅速で詳細な生物多様性の解明プロジェクトが展開される機運が国際的に高まることが期待されます.
書籍情報
https://www.springer.com/gp/book/9783030532253
タイトル: Measuring Arthropod Biodiversity
編者: Jean Carlos Santos, Geraldo Wilson Fernandes
出版社: Springer International Publishing
eBook ISBN: 978-3-030-53226-0
DOI: 10.1007/978-3-030-53226-0
Hardcover ISBN: 978-3-030-53225-3
ページ数: 600ページ
17章の情報
タイトル: Collecting, Rearing, and Preserving Leaf-Mining Insects
著者: Carlos Lopez-Vaamonde (INRAE, France)
Natalia Kirichenko (Russian Academy of Sciences, Russia)
Issei Ohshima (Kyoto Prefectural University)
ページ: 439-466
なお,本章の内容は下記の研究費で得られた成果を元に執筆されています.
・JSPS 外国人研究者招へい事業 外国人招へい研究者(短期)
・JSPS 二国間交流事業(相手国:フランス)
・科学研究費補助金(No. 04J09250, 08J05555, 26840120, 17H06260)
動物機能学研究室と慶應大学との共同研究が
Natureに掲載されました。
腸管の腸内細菌情報が、腸
/肝臓領域から<求心性迷走神経→脳→遠心性迷走神経>神経反射経路を介して腸へ伝達され、腸管制御性
T細胞(
pTreg)の産生を制御する、生体内の新規機構を世界で初めて明らかにしました。本研究は、慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器)の金井隆典教授を中心とするグループにより実施され、京都府立大学動物機能学研究室の岩崎有作教授は、求心性迷走神経から脳への作用経路の解析を担当しました。
本研究成果の詳細は、英科学誌『
Nature』(
Volume585, No.7826, 2020年
9月
24日)に掲載されました。
Teratani T. et al., ‘
The liver-brain-gut neural arc maintains the Treg cell niche in the gut’, Nature 585:591–596 (2020)
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2425-3