地球規模の温暖化・気候変動が問題となっている中、高温や乾燥などの環境ストレス(=非生物ストレス)に強い農作物を開発することが必要です。現在世界中で多くの研究者が、植物のストレス耐性上昇に取り組んでいます。
この度、本学科・遺伝子工学研究室の森田准教授が分担執筆したイネの非生物ストレス耐性に関する著書が刊行されました。森田が担当した章では、遺伝子導入によるイネのストレス耐性上昇に関する最近の研究をまとめました。
書名 “Advances in Rice Research for Abiotic Stress Tolerance”
(非生物ストレス耐性に関するイネ研究の進展)
章タイトル “Engineering of abiotic stress tolerance by modulating antioxidant defense systems“
(活性酸素防御系の改変による非生物ストレス耐性の上昇)
文献URL
https://doi.org/10.1016/B978-0-12-814332-2.00037-X
Shigeto Morita. (2019) Engineering of abiotic stress tolerance by modulating antioxidant defense systems. In “Advances in Rice Research for Abiotic Stress Tolerance”, (Edited by Mirza Hasanuzzaman, Masayuki Fujita, Jiban Krishna Biswas, Kamrun Nahar), p755-765, Woodhead Publishing
バラ科サクラ属には、モモ、スモモ、アンズ、オウトウ(さくらんぼ)、ウメなど経済的に重要な果樹が多く含まれています。
森本拓也助教(果樹園芸学研究室)および京都大学・和歌山県うめ研究所の共同研究グループは、今回サクラ属果樹の異種間交雑親和性を網羅的に解析し、一部の組合せでは種間雑種を獲得できることを明らかとしました。
種を超えた交雑によって、新しい果樹の育成が可能になると期待されます。
研究成果は「Scientia Horticulturae」誌に掲載されています.
論文タイトル:Characterization of post-mating interspecific cross-compatibility in Prunus (Rosaceae)
リンク:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304423818308264
花をつける植物の雌しべの先端には、「柱頭乳頭毛」という毛が生えており、受粉の場として重要な役割をもちます。しかし、その毛の環境に対する応答機構は分かっていませんでした。
武田征士准教授(細胞工学研究室)および東北大学・三重大学の共同研究グループは、今回雌しべの柱頭乳頭毛が、周りの湿度に応じて長さが変わることを初めて見出し、この伸長には非生物ストレス(Abiotic stress)に応答するアブシジン酸が関わっていることを示しました。
高湿度下では、花粉が入っている葯の裂開が起こりにくいことが知られています。高湿度下での柱頭乳頭毛の伸長は、受粉のチャンスを上げるために起こっていると考えられます。
研究成果は、日本遺伝学会機関紙「Genes and Genetic Systems」に掲載されます。
幼虫が葉の中に潜る「絵かき虫」の仲間は,葉に潜った痕跡がどうしても残ってしまうため,天敵である寄生蜂の仲間がその跡を辿ってやってきてしまいます.絵かき虫も負けじと複雑な潜り方をし,それゆえに進化の過程で「絵」が達者になっていくのですが,鱗翅目昆虫の蛾の一部にはこの潜り跡を平面ではなく3次元的に加工するグループが知られています.
今回、京都府立大学大学院生命環境科学研究科博士前期過程2回生の青山悠さんと大島一正准教授は,この3次元構造の潜り方が寄生蜂からの回避において,特に有効に働いていることを野外調査と室内実験から突き止めました.
カイコの絹糸のように,鱗翅目の幼虫は糸を吐くことが得意ですが,潜っている葉を3次元的に曲げるときにも糸を使います.葉に潜る絵かき虫の生活スタイルは特に鱗翅目で多く見られますが,こうした糸を吐く能力に長けていることが鱗翅目における絵かき虫の多様化を促したのかもしれません.
この研究成果は,日本動物学会が発行する国際誌「Zoological Science」に掲載予定で、正式出版までは Early View の website (http://zdw.zoology.or.jp/EarlyView)にて公開されています。
なお,本研究の一部は科学研究費補助金の助成を受けて行われました。
論文情報
タイトル:Changing leaf geometry provides a refuge for a leaf miner from a parasitoid
著者:Haruka Aoyama* and Issei Ohshima (* 責任著者)
雑誌名:Zoological Science
単なる動物学の辞書を超えた読み物としても楽しめる一冊が発行されました.最新の知見を,各用語の意味だけでなくその学術的背景にまで掘り下げて詳細に解説しています.大島准教授は,「第3章 動物の進化」の「種分化」を担当しました.
ちょっと定価が高いのが難点ですが,教科書では物足りない,もっと動物を深く知りたい,という高校生や受験生にもお勧めです.すでに店頭にも並んでますので,ぜひ手に取ってご覧ください.きっと大学で挑戦したい研究分野が見つかるはずです!
書籍情報
タイトル:動物学の百科事典
著者:(公社)日本動物学会 編
発行元 丸善出版
出版社 website
https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b302768.html
目次詳細
https://www.maruzen-publishing.co.jp/fixed/files/pdf/302768/index_pdf_302768.pdf
京都府に自生するヒメザゼンソウの保全を目的として、地元住民の方々の協力を得ながら進めてきた形態・遺伝的多様性調査の論文が、Plants誌に掲載されました(武田征士准教授・細胞工学研究室、大迫敬義講師・資源植物学研究室、久保中央教授・細胞工学研究室他の共著論文)。
ヒメザゼンソウは、いくつかの府県で絶滅危惧種に指定されています。ザゼンソウより小さく、親指ほどの大きさの肉穂花序が、仏炎苞と呼ばれる葉に包まれたような、かわいらしい形をしている植物です。ヒメザゼンソウの保全を目的に、地元住民の方々の多大な協力を得ながら調査を進め、論文として発表しました。
掲載雑誌: Plants
論文タイトル:Life cycle and genetic diversity of Symplocarpus nipponicus (Araceae), an endangered species in Japan.
著者: Seiji Takeda, Yusuke Onishi, Yoshio Fukui, Takanori Ohsako, Nakao Kubo
動物機能学 井上講師が参加した健康成人の腸内細菌叢の特徴に関する研究の成果をまとめた論文がJournal of Gastroenterologyに掲載決定しました。
腸内細菌叢(腸内フローラ)が健康や様々な病気に関係していることがわかっています。本研究論文では、20-80代までの幅広い年代の健康成人を対象に腸内細菌叢解析を行い、その特徴や性差、BMIとの関係を報告しました。
本研究は、京都府立医科大学、タカラバイオとの共同研究です。
日本では水生半翅類の3分の1の種が絶滅危惧類に選定されています。本書籍は水生半翅類昆虫の生物学的知見とヒトとのかかわりを概観し、今後の研究や保全の指針となることを目指して編集されています。内容は環境適応、他種との関係、系統地理学、保全事例など多岐にわたります。農家、高校生、大学生、大学院生、そして環境アセスメント、環境教育や保全に関わる人を読者として想定しおり、中尾はその社会的・学術的活動の成果を「ヒメタイコウチの偏在と局在:その景観-群集生態学的アプローチ」の項を、社会人共同研究者とともに担当しました。
食物繊維を多く摂取すると満腹感が強く誘導されます。この満腹感創出には、食物繊維から腸内細菌の発酵によって作られる「短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)」が関与しており、実際に短鎖脂肪酸を実験動物に投与すると摂食量を低下させます。しかし、短鎖脂肪酸がどのようにして食欲中枢(脳)に作用しているか、その作用機序は十分には分かっていませんでした。
今回、京都府立大学大学院生命環境科学研究科 岩﨑有作教授らの研究チームは、短鎖脂肪酸が内臓から脳に情報を伝える「求心性迷走神経」に直接作用し、脳の活性化を介して摂食量を低下させるという、新規作用経路を発見しました(図)。短鎖脂肪酸の体内分解速度はとても速く、脳に到達しにくい物質であります。一方、短鎖脂肪酸の産生と吸収の場である腸・肝門脈には高濃度の短鎖脂肪酸が存在し、腸・肝門脈には多くの求心性迷走神経が分布しています。食物繊維より産生された腸の短鎖脂肪酸は、腸や肝門脈近傍の求心性迷走神経を活性化し、神経情報として遠くの脳に作用して満腹感を創出させていることが、本研究成果より示唆されました。
近年、腸内細菌叢と健康・疾患との関連が次々と明らかとなっていますが、ここにも短鎖脂肪酸の関与が指摘されています。従って、「腸内細菌・短鎖脂肪酸・健康/疾患」連関に、求心性迷走神経からの脳機能が関与している可能性が考えられ、更なる研究が期待されます。加えて、有益な短鎖脂肪酸を腸内で増やし、求心性迷走神経の活性化を介して摂食量を抑制する食品やサプリメントの開発も期待されます。
本研究成果は、アメリカの学術雑誌「The Journal of Nutritional Biochemistry」の2018年7月号(Volume 57)に掲載予定で、電子論文はオンラインにて現在公開されています(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0955286317306630)。加えて、2018年6月9日の京都新聞に本研究成果に関する記事が掲載されました(http://www.kyoto-np.co.jp/local/article/20180608000167)。
本研究は、京都府立大学(岩崎有作教授)、関西電力医学研究所(矢田俊彦部長)、自治医科大学、株式会社明治との共同研究であり、科学研究費補助金や民間機関(株式会社明治)からの共同研究費等によって行われました。尚、本研究は費用の出資者とは無関係に公正に行われました。
京都新聞記事: http://www.kyoto-np.co.jp/local/article/20180608000167