農学生命科学科

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2022.01.24 分子栄養学研究室の研究成果が 国際学術誌「FASEB Journal」に掲載されました

栄養が欠乏した時に身体が適応する反応の詳細が明らかになりました

令和4年1月24日

京都府立大学

 

京都府立大学大学院生命環境科学研究科分子栄養学研究室は、栄養が欠乏した時に身体が適応して筋肉で起こる反応の詳細(食べ物が手に入らない飢餓時に人体がどのように適応し生き残るかのメカニズム)を明らかにし、この内容が学術誌「FASEB Journal(米国実験生物学連合ジャーナル)」(電子版)に2022年1月21日付けにて掲載されました。

 

飽食の時代に至る以前、人類は何百万年にもわたって飢餓にさらされてきました。飢餓は深刻な危機であり、人体は適応する代謝能力を獲得してきました。飢餓や栄養摂取制限により生体内でどのような反応が生じるかということは、栄養学にとどまらず生物学上の重要な課題です。食べ物が得られない飢餓の時には人体はどのように対応するのでしょうか?人体で最も重要な器官である脳は糖質(グルコース)をエネルギー源としています。飢餓の時には、脂肪組織を分解したり、また身体の中で最も大きい組織である筋肉(体重の約40%)のタンパク質を分解して糖質を作り出して脳の機能を保つと考えられています。つまり飢餓時には筋肉が小さく萎縮します。飢餓時に筋肉で生じている反応を分子栄養学研究室では明らかにすることを試みました。

 

以前の研究で、飢餓などによる筋肉の萎縮時にFOXO1という遺伝子調節因子の量が筋肉で顕著に増加することを見つけました。そのためFOXO1を筋肉で人工的に過剰に発現する遺伝子改変マウスを作成したところ、筋タンパク質の分解が進み筋肉の萎縮が起こることを見つけています。今回、分子栄養学研究室はFOXO1(とその関連因子)を筋肉で欠損させる遺伝子改変マウスを新たに作成しました。そして、遺伝子改変マウスの筋肉で発現量が変化する遺伝子を、一度に数万個の変動を解析する方法(マイクロアレイ法)で探しました。その結果、飢餓時の筋肉ではFOXO1の制御下で、タンパク質分解の新たな分子、タンパク質合成を阻害する因子(食事由来のアミノ酸などのセンサー)、分岐鎖アミノ酸の輸送体、脂質分解に重要な酵素など、さまざまな機能分子が働いていることがわかりました。

この成果は、飢餓適応という生体にとって基本的な役割を明らかにした生物学的に重要な発見です。また筋肉の萎縮はさまざまな病気(がんや糖尿病)やギプス固定、加齢などで起きますが、筋肉の萎縮の予防・改善の重要な手がかりとなるものです。

 

【研究の概要】

発表のポイント

・骨格筋特異的にFOXO1を過剰発現したトランスジェニックマウスと骨格筋特異的にFOXO1、FOXO3a、FOXO4を欠損したノックアウトマウスを用いた解析から、飢餓時の骨格筋におけるFOXO1の新規標的遺伝子を網羅的に明らかにしました。

・具体的には、飢餓時の筋肉ではFOXO1の制御下で、タンパク質分解の新たな分子、タンパク質合成を阻害する因子(食事由来のロイシンやアルギニンなどのセンサー)、分岐鎖アミノ酸の輸送体、脂質分解に重要な酵素など、さまざまな機能分子が働いていることがわかりました。

・これらのモデルマウスを用いた解析などから、筋萎縮時の筋タンパク質分解活性化の新たな分子メカニズム(FOXO1-C/EBPδ軸)を発見しました。飢餓状態での骨格筋では、FOXO1がC/EBPδやATF4と協調して標的遺伝子の発現調節していることが示唆されました。

 

 

発表雑誌

<雑誌名>

FASEB Journal

<論文タイトル>

FOXO1 cooperates with C/EBPδ and ATF4 to regulate skeletal muscle atrophy transcriptional program during fasting

<著者>

Mamoru Oyabua, Kaho Takigawaa, Sako Mizutania, Yukino Hatazawaa, Mariko Fujitaa, Yuto Ohiraa, Takumi Sugimotoa, Osamu Suzukib, Kyoichiro Tsuchiyac, Takayoshi Suganamid, Yoshihiro Ogawae, Kengo Ishiharaf, Shinji Miurag, Yasutomi Kameia

a Kyoto Prefectural University, bNational Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition, cUniversity of Yamanashi, dNagoya University, eKyushu University, fRyukoku University, gUniversity of Shizuoka

 

<論文URL>

http://doi.org/10.1096/fj.202101385RR

 

 

【連絡・問合せ先】 京都府立大学大学院生命環境科学研究科

分子栄養学研究室 教授 亀井 康富

電話 075-703-5661 E-mail kamei[at]kpu.ac.jp

2022.01.20 新しい花色による花弁の障害を回避する方法を発見(野菜花卉園芸学研究室)

夏の花として親しまれているトレニアは、可愛らしい姿と育てやすさを兼ね備えた優れた園芸植物です。しかし、花の形や色のバリエーションが少ないため、地味な花という印象を持っておられる方も多いのではないでしょうか。本学科の西島隆明教授(野菜花卉園芸学研究室)らの研究チームでは、動く遺伝子「トランスポゾン」が活性化したトレニア「雀斑(そばかす)」の子孫から、花や葉の形や色が変化した様々な変異体を得て、新品種の育成を目指しています。

 

今回、「雀斑」の子孫から、明るい赤紫色の新しい花色を示す変異体を見出しましたが、残念なことに花弁が縮れてしまう欠点がありました。しかし、この変異体を、赤紫色の色素であるアントシアニンの生合成が抑制された別の変異体と交雑すると、花弁が赤紫色を保ったまま正常に発達することが明らかになりました。新しい花色が花弁に障害を起こす例は他の花でも知られており、今後、研究成果が花色の育種に広く役立つことが期待されます。

 

<論文情報>

Nishijima, T., N. Tanikawa, N. Noda, M. Nakayama. 2022. A torenia mutant bearing shrunken reddish-purple flower and its potential for breeding. Hort. J. 91: 104-111.

DOI https://doi.org/10.2503/hortj.UTD-319

2022.01.11 雑穀・アワの多様化と分布拡大に関わる候補遺伝子を同定しました(資源植物学研究室)

古代より五穀のひとつに数えられるアワは、日本の文化と密接な関係があります。古くは中国の古代文明の主食であったとされ、近代以前はアジアやヨーロッパで穀物として人類を支えてきました。アワがどこからどのように広がったのかということは我々人類の歴史をたどるという意味でも重要です。また、さまざまな環境に適応し、人が栽培することにより形態的にもきわめて多様であり、作物がどのように多様化し分布を広げてきたのかという進化生物学の研究上非常に興味深い材料です。

 

資源植物学研究室の大迫敬義准教授らのグループは、アワについて実験集団を構築し、次世代シークエンサーを用いた解析を行うことにより詳細な連鎖地図を作成しました。これを用いて形質の多様化や異なる環境条件への適応に関する候補遺伝子を同定しました。さらに、品種間や系統間の変異の解析を行い多様化の遺伝的基礎を明らかにしました。アワの分布の拡大や人為選抜による多様化の解明の手掛かりになる研究といえます。

本研究成果は,英国の国際誌「Scientific Reports」(電子版)2022年1月7日付(日本時間午後7時)に掲載されました。

プレスリリース原稿

https://www.kpu.ac.jp/cmsfiles/contents/0000008/8726/Jan.7.2022.pdf

論文情報

Kenji Fukunaga, Akira Abe, Yohei Mukainari, Kaho Komori, Keisuke Tanaka, Akari Fujihara, Hiroki Yaegashi, Michie Kobayashi, Kazue Ito, Takanori Ohsako, and Makoto Kawase (2022) Recombinant inbred lines and next-generation sequencing enable rapid identification of candidate genes involved in morphological and agronomic traits in foxtail millet. Scientific Reports 12: 218.

DOI 番号:10.1038/s41598-021-04012-1

論文公開 URL: www.nature.com/articles/s41598-021-04012-1